陰翳礼賛

 

 

 日本の伝統美は、西洋のような浅いあからさまな装飾美とは異なり、陰を基調とした朦朧とした自然美あると主張している。厠や食器、装飾などを例にとり、西洋美に比べて日本の美が優れている点を挙げていく。また、西洋と東洋で美意識の違いが生まれた背景として、両人種の肌の色の違いが原因であるという考えを述べて話をしめくくる。

 なるほど、日本の美の価値を再認識することができた。しかし、ここまでの優れた点がありながら、私たちの日常から日本様式がほとんど消え失せてしまったのはなぜであろうか。理由の一つとしては、西洋様式のほうが合理的であり、それを私たちが好んだからだといえる。それでは、なぜ私たちは合理的な様式を選択してしまったのだろうか。それはやはり、その時代において西洋のほうがより経済的に豊かで、軍事的にも強かったために、西洋文化を取り入れて彼らに追いつこうとしたがためだと思われる。要するに日本人に根差した禅的な美は、物質的な豊かさを得るためには非合理的だったのだ。

 今の世の中を見てみると合理性を追求するあまり、自然と人間が袂を分かち環境問題が生じ、人間と人間の間の関係も浅薄なものになり自殺者が後を絶たない。人間という存在を自然と一体のものとして捉えようとする日本の伝統美の価値観を今こそ見直してみるべきなのだろうか。