私とは何かーー「個人」から「分人」へ

 

私とは何か――「個人」から「分人」へ (講談社現代新書)

私とは何か――「個人」から「分人」へ (講談社現代新書)

 

  私とは「分人」であると著者は主張する。本当の私が存在するというのは幻想で、私という存在は、幾人かの人との関係のなかで生まれた複数の人格を併せ持った存在だという。このモデルを使い、人間関係で生じる苦悩を分析することでその原因を明らかにしている。

 本当の私が存在すると皆が思ってしまうのは、人はそれぞれ固有で唯一の顔を持っていることが一つの原因だと著者は述べている。これは心と体の関係性を述べていて大変興味深かった。デカルトが主張した心身二元論が普及して、心と体はべつのものだと考えられた時期はあったが、この二つはそのように截然と分け隔てることのできることはできないと思う。体の調子で心の調子は影響を被るし、その逆もしかりである。両者の関係は何のかが科学的に解明されるのはずっと先のことになるだろうけど。。。

 人間という科学的に未知な部分が多い生命対象を「分人」というモデルに当てはめて考えることにすこし抵抗があったが、モデルなくして対象を理解することは困難だし、従来の心理学も同様の手法をとってきているので(フロイトの、エゴ、イド、スーパーエゴの関係とか)、正攻法のアプローチだとは思った。

 愛とは、献身の応酬ではなく、一緒にいるときに感じる居心地の良さのことであると著者は述べているがこれは私とは意見を異にする。